包み込む器 Female-Embracing Organ-Bed/Bath for Baby〜赤ちゃんの湯船またはベッド〜

2009年に作ったものは、強度を保つため型を内側に残したままでした。

再び作る機会に恵まれたので、バージョンアップさせることにしました。
乾漆そのものの強度を信頼し「漆の膜の積層で空気を包み込んだベビーバス/ベッド」というコンセプトのほうがシンプルで美しいという結論に至ったからです。
漆、麻布、土の粉だけでできているのでもちろん土に還ります。その方が赤ちゃんにはふさわしい。

構造家に解析とアドバイスをもらい、重力と水圧がかかる部分は布の厚みを増やし強化しています。図の赤い部分、サイドの真ん中に最も重力がかかるとは意外でした。お饅頭を上から押さえるとサイド真ん中が膨らむのと同じ原理なのだそうです…

解析の結果、公の場でも安心して使っていただけるとの結論が出たので、京都市の産業技術研究所で型作り。現物ベビーバスを3Dスキャンした上でその断面をCADで出力し、50mmのスタイロフォームをその形に合わせて切り抜き貼り合わせる。切断面が思いもしない形ばかりで面白い!

玄襲

work
Feb 19, 2020

久しぶりに大道さんの撮影。
ずっと作りたかった『襲(かさね)』の黒バージョン『玄襲(くろかさね)』がほぼできあがったので、襲と同じアングルで撮ってもらいました。
大道さんもアシスタントの新村さんもお元気そうでよかった、楽しい撮影。気がつけば5時間があっという間に過ぎていました。1作品にこんなに真剣に取り組んでくださる大道さん、頭が下がります。

『襲』が『玄襲』という言葉になった途端、襲われる感がなんだか増えたように思うのはわたしだけでしょうか。玄が襲いかかってくる〜。
漢字の「黒」も「玄」もどちらも黒色を表しています。ところがこの2つには違いがあります。「黒」は下のレンガ(火の偏である4つの点)が火を表し、その炎から立ち上った煤で煙出しが黒くなっている様子が漢字の成り立ちだそうです。
対する「玄」の「幺」の部分はねじった糸束を表し、その上に横棒を渡して、つるしているようなイメージで「白い糸を黒に染色している様子」を表しているそうです。そして、垂らされた黒い糸の隙間から向こう側の世界を見る。そこには見る人によって抽象にされた世界が広がっているのかもしれません。中国の水墨画の世界は、この玄の世界なのだと思います。そんなわけで「黒」は物理現象による黒色、「玄」は精神世界をも含んだ黒です。
なので漆の黒も「黒」ではなく「玄」でいきたい。
『玄襲』は漆の黒色の世界の豊かさと奥深さを表しています。

Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのために作った『Entropy』も漆黒の凹凸レンズのような物体なのですが、同じ漆の黒でも凹面と凸面では異なった黒に見えます。というのも裏テーマでした。

制作協力させていただいた電通大教授の坂本真樹先生のプロジェクト『質感オノマトペマップver.漆』が編集者の上條さんから届きました。あ、ロゴがゴールドに輝いてる笑!
マップには漆の質感サンプル写真がオノマトペとともに「やわらかい」↔︎「かたい」「湿った」↔︎「乾いた」「温かい」↔︎「冷たい」などの座標軸に配置されています。
坂本先生が書かれた記事、それからインタビューではわたしのまどろっこしい回答をすごくスッキリまとめていただきました。
などなど小さな冊子ですが盛りだくさんな内容です。
質感認識の科学的解明に少しでも貢献できたかな…。そしてまた発展系で坂本先生と一緒に何か作ることができたら、とサイエンスと漆がくっつくことを願っています。
最後になってしまったけれど、ご協力くださった堤浅吉漆店の堤くん、いつも本当ありがとうございます!

Entropy2

work
Dec 15, 2019

ちょっと前のこと、Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのリーフレットのための撮影でした。
スケールがよくわからなくなるほど大きなスタジオ。漆黒の不思議な物体落ちてる感に、モノリス?という声も上がり・・・。カメラマンのなかじまさんマジックで、作品をぐぐーっと上げていただきました。感謝!
リーフレットが出来上がりましたら、またこちらにアップしたいと思います。

協力させていただいていた電通大坂本真樹教授のオノマトペマッププロジェクトver.漆が発表されるというので、京都大学芝蘭会館での多元質感知の国際シンポジウムに行って参りました。刺激的だった!!
わたしの制作したオノマトペセットを展示していただきました。色々な国の名だたる質感研究者の方々の目に日本の漆の質感はどのように映ったのでしょう。


Entropy1

work
Nov 05, 2019

Savoir-Faire des Takumiプロジェクトのための作品『Entropy』制作中。

表面にヘラでキリコ(漆と土の粉類のペースト)をつけてゆく。
一足一足山を登るように、一ヘラ一ヘラ未だ塗っていないところを埋めてゆく。
山登りは好きじゃない。でも大きなものを作るのは肉体労働に近いから好きだ。

虚構を作ることが生業の脳内労働者のダンナにすらてめえは観念的すぎると貶められるわたしにとって、漆の作業はまごうことのない「体験」だ。遠い遠い遥か古の人々と同じ漆の匂いを嗅ぎ、トロリとしたとらえどころのない液状の漆をあつかい、その神秘の艶に心躍らせる。

ほんの少し、ほんとうに少しずつしか進まない、でも確たる歩み。こんな間違いのないものはない。馬鹿馬鹿しいぐらい遅々として、現代のスピードとかけ離れ過ぎてるところに価値がある。

だから頭でっかちのわたしは、一ヘラ一ヘラ漆を置いていく。この手でもって。作業が終わったら、筋肉が礼儀正しく疲労していることが嬉しい。

歯医者では、顎の筋肉が前回より発達してますが何か思い悩んで噛みしめてませんかと指摘され、はたまた胸筋が増えたらしく胸も1カップぐらい大きくなった笑。仕事が身体に現れるなんて勲章みたいだとほくそ笑む。

あと私を実体に繋ぎとめてくれるのは、私の身体から生まれ落ちた柔らかな娘のほっぺに頬ずりしている時と、それから、あれかな。

「物理・知覚・感性の対応付けに基づく実社会の多様な質感情報表現」について研究されている電通大の坂本真樹教授の『オノマトペマッププロジェクトVer.漆』に関わらせていただいています。オノマトペセット、インタビューテキストともに無事完成できてうれしいうれしい。
「質感」を言葉で表すときに使用するのが「オノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語)」だそうです。漆の質感表現については常日頃から考えてる。でも今回、多様な漆の質感のオノマトペ化を試みることは、より質感に迫ろうとする作業でした。大変微細な質感の違いを表すには、言語感覚における表現力が必要で、あーもっと来い来い表現力、と嘆きつつ。とはいえ、言葉で表しきれない違いを表現するのがヴィジュアルで勝負しているわたしたちの仕事なのかもしれないとも思うのです。質感と言葉の追いかけっこをしているようでした。
蒔絵と高蒔絵のサンプルにはオノマトペロゴを蒔絵化してみました。これがとても素敵なデザインで、優美な曲線が金蒔絵とひき立てあい、金を磨くのが愉しかった。
それから気に入っているのが、ちぢみ。漆は厚く塗りすぎると表面が縮んでしまうという特質があります。仕事としては、あー、厚く塗りすぎて縮んじゃった研ぎ直しの塗り直し、ということになるのですが、この縮みを今回はあえて質感表現として加えてみました。がっつりかっこよく縮んでくれた!
マップという形式ですので、紙媒体にまとめられて、12月に発表だそうです。また、学会でも発表されるそうで、楽しみです!

Kyoto←Paris

work
Jun 16, 2019

 パリより帰ってきました。すでに2週間経ってしまいました。
 本当にぱんっぱんになった頭のスーツケースにグイグイ体重かけて閉めて帰ってきたような状態だったのです。頭に隙間=余白=遊びがないと「わたし」として何も考えられない。師匠もダンナも、忘れないとダメなんだよと折りに触れ同じこと言うなあと思ってたけれど、今回はそれを実感。2週間かかってやっと色々と忘れることができたようです。そして、その中で鮮やかに立ち昇ってきたものも・・・。

 
 ここ2週間ずっと考えていた、作品の構想。(このプロジェクトは作品を12月頭までに仕上げなくてはならないのです)
 パリでプロジェクトが始まってすぐの各々のプレゼンの後、まだ頭の整理もつかないままに思いついて提案してしまったアイデアは、漆の「時間」というものに一度向き合いたいという思いから「経年の変化」だった。コラボレーションパートナーになったのはIndigo(藍)を使うデザイナーの Anaïs、作品と同じ目の色をした透明感ある素敵な女の子。Balenciaga、ChristianDior、Cacharelと華やかなグランメゾンを経て、その商業ベースの世界からアート方向へと転換するべく自身のブランドを立ち上げたという。
 藍も漆もどちらも美しさのためだけでなく、素地を守るために施される膜である、と二人で話し合った。時とともにその層が剥がれ落ちてゆくという現象。そこをテーマにしたかった。

 わたしは「時を集める」ようにまず古い漆器を集めようと思い、帰国してすぐに収集を始めた。それらのかけらで作品を作ろうと考えていた。ところが集まってきた物を眺めながら、一体これが自分の今まで作ってきたものとどうやって繋がるの?唐突すぎない?訳わからない?漆器の妖怪作る気か?(『おわんない』て「お椀」と「終わらない」をかけたタイトルまで考えてみた笑)とかちょっとこれでは収拾がつかないぞと思い始めた。うまくいかなかったら、賛同してくれたAnaïsにも申し訳ない。そんなあやふやなもの作りたくない。

 そんなことを悶々と考え続けてるうちに、パリで見たもの経験したものその他諸々を忘れていったらしい。(でも、たぶんどっかにはある、必要な時には出てきてくれると願いたい)
 そのうち自分の中で立ち昇ってきたのは、Galerie Thaddaeus Ropacで見たDonald Juddの一連の作品。今までまとまった状態で見たことはなく、ミニマリストという認識しかなかったのだけれど、こんなに美しいとは知らなかった。計算し尽くされ研ぎ澄まされた表面。そして視覚効果。舐めるように見てたらAnaïsもわたしもギャラリストに注意された。触れると表面状態が変わってしまう、作品の存在価値および視覚効果に影響が出るからとか言ってたかな。この展覧会のキュレーションをしたJuddの息子さんに厳しく言われてるからとのこと。虫とかきたら大変だね、とAnaïs、ほんと、ちょっと虫の糞ぽいのついてたけど。アルマイト(陽極酸化処理した表面)がどうのこうのから長々と説明してくれたのだけど、込み入ったフランス語をちゃんと理解できなかったのが今になってとても残念。今度Anaïsに尋ねよう。
 そして、Thadaeus Ropacのことを教えてくれた方とその後やりとりをする中で、とても大切なことに気づかせてもらったのです。だけど大切なので心に秘めておきます。
 そんなこんなで悶々を抜け出しました。まだどうなることやらわからないけど、ちょっと光が見えたような。まだまだ創作の悩みは尽きないけれど、古い漆器とJudd、そんなとこが今、今回のパリ後にわたしの中で熱くなっております。何の脈絡もないそれらが、わたしの中で繋がったようです。

Kyoto→Paris

work
May 25, 2019

こちらの京都市とパリ市共同プロジェクトに参加するため出発します。
ミニマムで美しい昨年のリーフレットのロゴ&デザインはわたしのロゴやDMを作ってくださっている塩谷さんがされたそうで、さすが。よし、わたしもがんばらねばー。

→  Savoir-faire des Takumi project

「Savoir-faire des Takumi」は、京都市・パリ市の職人やアーティストたちが互いに交流し、それぞれの文化や技術からインスピレーションを受けながら、世界のアート市場に向けた、新しい作品の創作等をサポートするプロジェクトです。

“Savoir-faire des Takumi” is a collaborative project to support artists and artisans from Kyoto and Paris, where they can interact and create new works geared towards the global art market while gaining inspiration through each other’s culture and techniques.

主催:京都市、パリ市、アトリエ・ド・パリ 協力:文化庁 地域文化創生本部、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、アトリエ・ダール・ドゥ・フランス
特別協力:株式会社髙島屋 事務局 : 京ものアート市場開拓支援事業事務局(コンソーシアム 株式会社ジェイアール東日本企画 / 株式会社TCI研究所)
Organizers : City of Kyoto / City of Paris / Ateliers de Paris Partners : Agency for Cultural Affairs, Government of Japan / Kyoto Art Center / Ateliers d’Art de France
Supporter : Takashimaya Co., Ltd. Managing Office : Kyo-mono Art Market Development Support Project Managing Office(Consortium between East Japan Marketing &
Communications,Inc. and TCI Laboratory, Co., Ltd.)

ほとんど人の目に触れることのない、未だ液体状態の漆の姿を映像に収めた拙作『figure』、これに青木さんに音楽をつけてもらいたいなーと半年ほど前から思っていた。
青木さんはパリ、ベルリンを経て今は大阪ベースで活動されている、エレクトロミュージックの分野で世界的に知られる方だ。
お正月過ぎにぼんやりインスタグラムを見ていたら、友人が八日戎に行きました―という楽しそうな投稿が流れてきた。赤ちょうちんのぶら下がるネオレトロ?な飲食スペースでDJがプレイしている。「DJの青木君に会いました」と書いてあったので、DJの青木くん?でも、これはきっと違うDJの青木くんであろう、と思っていたらハッシュタグにaokitakamasaとあってびっくり。えびすさまに福をいただいたような気持ちで、すぐ友人にメールをしてみたら快く紹介してくれたのでした。

そして先日心斎橋のど真ん中にある秘密基地のようなスタジオにお邪魔してきました。
前もって作ってくださっていたサンプル音に持参した映像を合わせてみたところ、どうしてこんなに~というぐらいぴったりで。まるで映像という2次元で表現されていた漆が3次元に広がったようでした。
青木さんの分析では、自分は慣性の法則などの物理法則を意識して作ってるから、漆が重力で落ちてゆく現象と合うのかも…とのことでした。
お話していても、パリにいたという共通点もあり、不思議なほど感覚の通じ合える方でした。
『Figure』に青木孝允さんの音楽が加わることで、より漆の質感が立ちあがってくるに違いありません!完成が楽しみです!

*special thanks to Sayaka Kato!